テレコム業界にとって、いかにコストを削減し、一ユーザー当たりの収益を高めていくかは、今に始まった話ではなく常につきまとう課題であり続けてきた。この古くて新しい課題を解決する鍵の1つは、やはり「自動化」だろう。
マイクロフォーカスエンタープライズ株式会社(以下、マイクロフォーカス)営業本部本部長の和田馨氏によると、キャリアの現場ではいまだに「手作業」による処理が多々見られるという。「法人向けビジネスを例に挙げると、顧客を担当するフロントとお客様のやりとりはマニュアルインタラクションです。サービスを提案して採用された後のネットワーク接続や設定といったプロセスもすべてマニュアルであり、コストがかさんでいます」(和田氏)
こうしたマニュアルの世界から脱却し、自動化を実現する上で1つのヒントになりそうなのがIT業界の取り組みだ。クラウド活用に伴って浮上してきた課題を解消し、効率的に利用するため、「FinOps」と呼ばれるクラウド活用の最適化を図るアプローチが取り入れられつつある。
野良クラウドなど、クラウドコストの増加要因の解消に役立つ「FinOps」とは
今や、さまざまなSaaSやパブリッククラウドサービスなしに、ビジネスは成り立たない。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き型改革の進展もクラウド活用に拍車をかけており、マルチクラウド活用が当たり前になりつつある。
これ自体は悪いことではないが、それに伴って新たな課題が浮上してきたのも事実だ。その1つが、クラウドに関するコストの肥大化や見通しの立てにくさだという。「調査会社の資料によると、クラウドのコストは今後3年間で1兆3000億ドルから1兆8000億ドルに増加すると見込まれています。問題は、State of the Cloud Reportによると、2021年の時点でクラウドに投じたコストの約30%が無駄になっていることです」(和田氏)
マイクロフォーカス 営業本部本部長の和田馨氏
理由の1つは、事業部門側の予算主導で導入された「野良クラウド」だ。また、各社クラウドサービスのメニューは思った以上に複雑で、利用形態やリソースによってコストに大きな差が生じる。このため、よく知らずに契約を結んでみた後になって、実はもっと安価にできる契約があったことに気付くことも珍しくない。こうした事柄が積み重なって、全体で30%ものコストが無駄に消費されている。
野良クラウドが増える背景(画像クリックで拡大)
コストの全体像を把握できないことも大きな課題だ。「コストはこのくらいだろうと思ってクラウドを利用していたら、サービス拡大に伴って急にコストが跳ね上がり予算超過に陥ることもありますが、事前にそれを予測するのは困難です」(和田氏)。
クラウド利用の拡大に伴って、コスト管理におけるさまざまな課題が浮上している
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こうした悩みを踏まえて提唱されているのがFinOpsというコンセプトだ。
FinOpsでは個別にクラウドサービスを利用するのではなく、必要なサービスをカタログ化してポータルに集約し、そこからセルフサービス的に利用するプロセスを整える。利用に当たっては必ずこのポータルを経由することでプロセスを自動化・効率化できる上に、誰がどのようなクラウドサービスを利用しているかを可視化・分析し、無駄なコストや超過コストがないかを確認し、コスト管理につなげることができる。さらに一歩踏み込み、もっと安価な選択肢をシステム側が提案し、クラウドコストを最適化することも可能だ。
FinOpsにより複数のクラウドを集約し仲介するイメージ(画像クリックで拡大)
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この取り組みは、クラウドサービスを利用する側はもちろん、クラウドサービスを提供する企業からも注目されている。そして、さまざまなクラウドサービスを利用しつつ、顧客により付加価値の高いサービスを提供しようと考えているキャリアにとっても有益なアプローチと言えるだろう。
マニュアルベースのプロセスから脱却し、コスト削減とサービスの向上を
FinOpsも含め、オートメーションやセルフサービスといったコンセプトを具現化するマイクロフォーカスのソリューションが「HCMX(Hybrid Cloud Management X)」だ。
「一般的なクラウドサービス利用では、まず計画を立て、申請を行い、それを承認してから準備、構築していく流れとなっています。しかし、さまざまなローカルルールがあったり、エンジニアの人手不足のためにプロセスが標準化されておらず、時間やコストがかかりがちです」(マイクロフォーカス プリセールス統括本部 プリセールスの竹森公彦氏)。運用し始めた後もコストが不透明で、運用がばらばらなために工数がかさむ。
マイクロフォーカス プリセールス統括本部 プリセールスの竹森公彦氏
これに対しHCMXは、クラウドコスト全体の見える化とAIを活用したコスト最適化、セルフサービスを組み合わせて、現時点で全体の30%に上ると言われるクラウドの無駄なコストを省いていく。また、自動化やセルフサービスポータルを活用することで作業工数を削減することも可能だ。
HCMXを導入した環境では、新たなクラウドサービスを利用する場合、ユーザーがサービスそのもののWebページに直接アクセスすることはない。代わりに、IT担当などがあらかじめAWSやAzure、GCPといった各種クラウドサービスを「カタログ」化してサービスポータルに集約しておく。事業部門や開発者などはそこにアクセスし、必要なサービスを選択していく形で、ちょうど、テレコム業界におけるサービスのカタログ化と同様だ。
サービスのカタログ化や自動化によってFinOpsという考え方を具現化するHCMX
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たとえば、「新入社員が入社したらMicrosoft 365のアカウントを作成し、必要な権限を与える」といった一連のプロセスをHCMX上でワークフロー化しておくことで、作業効率を高めることができる上に、クラウドに詳しいエンジニアが十分にいない環境でも、必要な環境を簡単に用意できる。
このカタログ化作業を支援するツールも用意されており、「どのクラウドサービスのどんなサービスを、どのリージョンのどのようなインスタンスで利用するか」といった設定を、GUI上でノーコードで行える。
HCMXにはさらに、「Operations Orchestrations」というパッケージも統合されている。文字通り、キャリアサービスのオペレーションを同じように自動化していく機能だ。
「ユーザーが新規にオフィスを建てたり新たなネットワークサービスを必要とする場合に、マニュアルでの商談や申し込み、設定を行うのではなく、あらかじめ作成したカタログをポータル上で申し込むだけで、自動的にフローに沿って処理が流れ、必要なネットワークサービスが提供されます」(和田氏)。
HCMXによるクラウドポータルのイメージ
社内向けにもユーザー向けにもサービスを集約したポータルを提供できる(画像クリックで拡大)
このようにクラウドはもちろん、ネットワークサービスについても、マニュアルに頼るのではなく自動化することで、コストや工数の削減が可能となる。
クラウドやIT環境の構築では、AnsibleやTerraformといった自動化ツールの活用も広がっている。HCMXはさらに一つ上のレイヤーで、こうしたツールも包含した、プロセス全体の自動化やオーケストレーションを実現していくという。
マニュアルベースのプロセスから脱却し、コスト削減とサービスの向上を
顧客のさまざまなニーズに応え続けてきた結果、クラウドも含めたさまざまなサービスは複雑化し、結果としてその管理やコスト把握が課題となっている。そんな中、FinOpsというコンセプトに基づいて全体の自動化・可視化を支援するHCMXは、一般企業はもちろん、それ以上にコスト削減のプレッシャーにさらされているキャリアにとっても有益なソリューションと言えるだろう。
すでに海外だけでなく、国内のサービスプロバイダーでもHCMXを導入し、マニュアルに頼ってきたさまざまなプロセスを自動化して必要なサービスを最適な形で提供する環境を整えようとする動きが進んでいる。
日本人の特性として、どうしても「人手によるサービスの方がきめ細かく対応ができる」といったイメージを持ちがちだ。もちろん人手にも良さはあるが、コスト削減や収益の向上といった大きな目的を達成する上ではネックになる可能性が高い。
FinOpsという考え方に基づいて必要なサービスを標準化・カタログ化し、セルフサービスとオートメーションを組み合わせていくことで、テレコム事業者はもちろん、そのサービスを利用する顧客にとってもよりよいサービスを提供できるだろう。